カデテスのコーチは体力勝負

 2006年12月、全くラグビーを知らなかった新人選手も少しラグビーのルールやプレーの事が分かり始めてきました。ヘッドコーチのシャンティは膝を痛めて現在プレーを止めていて教える方に回っているのですが、体を張って教える熱い男です。

 いろいろ体作りを考えていて、時には長距離(1時間半ぐらいのコース)をマラソンの様に走るメニューもあり、その時には自分が一緒になって走ります。マラソンが終わってからもまだ練習が続くので、私はマラソンの時は遠慮して、グランドで待っていました。


 グランドでは今度はぶつかり合いの練習です。選手同士ぶつかり合いの練習をさせれば良さそうなのですが、シャンティはタックルマシン(クッションになるようなパッド)を自分が持って選手にぶつからせます。選手は5−6メートルの距離から助走をつけて、立ってパッドを持っているシャンティに思い切りぶつかります。

 私もパッドを持って立つ事になってしまいました。立っているコーチは私とシャンティ二人ですが、助走をつけて走ってくる選手は15人ほどいます。最初の4−5人は何とか受け止めていたのですが、だんだん疲れて来て、最後は120キロのアントニオにぶつかられ2メートルほどはね飛ばされてしまいました。


 別の日にはアタックとディフェンスの練習ですが、人数が足りないのでカデテスの選手のアタックにコーチ達がディフェンスをすることになり、最初はタックルをせずにタッチするだけだったのですが、あまり緊張感がなかったので、本当にタックルをする事にしました。

 私のポジションはセンターでマークは突破力のあるオトです。オトは自分のマークがシャンティではなく、私になったのでホッとしたような様子でした。


 私はセンターのポジションであれば、ディフェンスでもアタックでも自信はあったのですが、出来る事ならぶつかりたくないと思っていました。私の心を読みとったかの様に、選手達はオトで勝負させようとしました。

 仕方がないのでタックルを行く事にして、オトがボールを受けた瞬間を狙いタックルをしました。その日オトは4回、ボールを持つ機会があり、4回とも私にタックルされてしまいました。


 多分オトにとってこんなに完璧にタックルされた事は生まれて初めての経験だったのではと思います。練習が終わって帰ろうとすると、オトが近寄ってきました。オトは性格は明るくコーチの言う事も良く聞く素直な子ですが、英語は話せません。

 私がスペイン語をほとんど話せなかったので、何か話したそうでしたが、結局、私に「ナイスプレー」と言っただけでした。


 私は突破力のあるオトをボールの持つ機会の多い、センターで使いたかったのですが、オトはフルバックの方が好きなようです。あるゲームで前半負けていて、後半私がオトをセンターにあげる様にシャンティにアドバイスし、オトの活躍でゲームに勝った日があります。その時、ゲームが終わった後、シャンティが「今日の殊勲者はユージだ、彼がオトをセンターにする様に言った」と皆に伝えて事もあり、オトはセンターも悪くないと思っていたようです。


 でもこの日の事でオトはやっぱりフルバックの方が良いと思ったかもしれません。コーチとしては「自信を持たせるために半分は突破させてやっても良かったのでは」と後で少し反省しました。


 次の日は腰が痛くてまともに走れませんでした。カデテスのコーチは体力が必要なのだと感じました。