星名理論と岡理論 93  主体的思考による環境の最適化 10

ラグビーにおける主体的思考とは 2

  この様なタイトルを見ると、何か哲学的な話の様に見えますが、私には自分の意思をはっきりと持ち、それを実践するために全力を尽くすだけのことの様に思えます。

 前回の東京外語大のラグビーの続きですが、私は彼らにラグビーの技術的なことは何も教えられませんでした。星名先生の理論、岡先生の理論に基づいたプレーを色々教えたかったのですが、ラグビーの基礎プレーも満足にできる体を作っていなかった当時の選手たちに、わずか5日間ほどでは何も教える時間がありませんでした。

 教えたのは「ボールは全て前に蹴れ、全員前に向かって走れ、ボールを持っている相手に一番近い選手がとりあえず捕まえろ、後は皆んなで押し倒せ」ということだけでした。

 これも「教えた」というよりは「こう言って怒った」という方が正確です。私は同志社をはじめ、いくつかのチームに教えに行きましたが、大声で怒る様なことはしたことはありません。

 最初の試合では私には同レベルと思えるチームに大敗し、最終日にはその負けたチームに大勝している東工大の試合に「負けるのがわかっているので試合をしたくない」と言っている選手がいたので、初めて怒りました。

 力の差は歴然としていました。しかし全力で戦ってくれさえすれば、それで良いと思っていました。しかし、試合前の雰囲気はいつもと違っていました。もう涙ぐんでいる選手もいて、「思い切り前に走ります」という選手や「勝ちます」と言う選手まで出てきて、この時点で私はもう満足していました。

 ところが試合になると、本当に全員が前に向かって走り出しました。相手に強い選手がいて突破されかけるのですが、一人や二人タックルを外されても、次から次へタックルに来るので、その強い選手も前に出ることができませんでした。だんだん勢いの差が出てきて、試合は圧勝でした。

 もうラグビーの理論も技術も何もありませんでした。ただ全員がボールを持っている選手のところへ全力で走り込んでいるだけでした。1人目は外される。2人目が少し触り、相手のスピードが緩み、走るコースが決まる。3人目が捕まえる。4人目がそれに加わる。5人目が加わって押し倒す。

 この様な感じで、ポジションも関係なく、全員が前に向かってボールを持っている相手を捕まえに走っていくことに意識が徹底されている様でした。この様なディフェンスをされたら、私が相手チームでプレーしていても、突破することは難しいのではと感じたほどでした。

 ラグビーは本質的には地域を取り合うゲームです。ルールでパスは後ろにしかできません。ボールを持っている選手より前の位置にいる選手はプレーに参加できません。敵味方、30人の選手が入り乱れて走り回ります。普通はポジションごとにマークする選手が決まっており、それぞれの役割が決まっています。しかし、そのポジションを全員が無視し、15人全員がボールを持っている選手に向かって走ってきたら、どの様に走ったら良いのか私でも想像できません。

 これはラグビーの常識を無視し、「全員がボールに向かって全力で走る」と言うことだけに、意識が徹底し、主体的な思考に全員がなったことで初めて可能になったものだと思われます。

 ラグビーの素晴らしさを逆に教えてもらった様な気がしました。

 ラグビーをすることで自分の意思で環境の最適化を考えるきっかけを掴んでほしいと思っています。

大井さん ブログ Jpeg
 東京外語大の合宿の様子です。こちらからからご覧なれます。