我輩は犬ではない。

 生まれてまもなくルディの母犬ナナが子育てを放棄したため、叔母に育てられた。そのため自分は犬であると認識はしていなくて人間と思い込んでいる節がある。非常にプライドが高く、飼主への忠誠心も高く、めったに他人に抱かれることはない。

 小さい頃からボールが好きで、ボールをもつと性格が変わるといわれるほど、気性が激しくなる。有栖川公園等に遊びに連れて行くと、一人でボールと遊んでいて、他の犬が来ても、一緒に遊ぶことはない。

 

 自分が遊ぶボールと遊ぶ相手は、自分で選ぶと決めているのか、こちらが遊ぶボールを選んでも、自分が遊びたいボールしか咥えない。またボールを投げてもらう相手も必ず自分で選ぶ主義らしく、突然咥えてきたボールを目の前に置き、ワンワンと吠えまくり、投げてくれるまで吠えるのを止めない。

 そして投げてもらうボールに飽きると、投げたボールを突然取りに行かなくなり、投げた人間が仕方なく自分で拾いに行く羽目になる。その時にはルディは他のボールを咥えて、別の人の前に置き、早く投げろと吠えまくっている。

 

 ボール遊びを止めるのも突然である。自分の気に入った犬がきたりすると、突然ボール遊びは止めにし、その犬に乗りかかり、腰を振っている。気に入った犬の大きさには関係ない様である。シェルティとかゴールデンリトリバー等にも果敢に乗りかかろうとする。そして背中や首の毛に噛み付き、動かさない様にして腰を振ろうとする。何度吠えられても、あきらめずに追いかける様は、男として尊敬に値する。


 内心ではこの様なことさえも気に入っているのだが、公園での付き合いではそうはいかない。少し様子を見て相手の親が気にしているようであれば、語気を荒く、低い声で「ルディ、ストップ」と叱ると、一応一度は止める。しかしまたすぐに、乗りかかろうとしている。


 あまりひつこく続けていると仕方ないので首の皮を持ち上げる様にして、少し離れた所に連れて行き、しかりつける。そして小さい声で、「ルディ、皆の見ている所でするな、隠れて旨くやれ」と言って放してやる。するとルディは話している内容が分かっているわけはないと思うが、ボールを持ってきて投げてくれと遊んでいる振りをして、しばらくするとまた乗りかかろうとしている。