スージーって誰


 2007年2月、カデテスのマネージャーのホセの車で試合に行く途中、後ろに座っていた選手の中から突然スージーの名前が出てきました。運転していたホセが選手に「スージーって誰だ」と聞くと、会話はスペイン語ではっきり聞き取れなかったのですが、何か誉めていたようです。

 しかし、そのスージーが誰のことか選手も分からないらしく、しばらくしてその選手が私に「ユージの本当の名前はなんと言うのか」と聞いてきました。

 質問が「スージーとはユージの事か」であれば、「そうだ」と答えるのですが、質問が私の本名だったので「ユージ」と答えたら、彼らはいつも黙って立って見ているだけの私とシニア選手相手に体に触れられることも無く抜いて走るスージーとが同じ人であるわけは無いと納得したようでした。


 2007年3月末でカデテスのコーチを降りることにしました。教えていたカデテスのコーチ陣が増えてきて多くなったので、もっと下の子供のコーチをしてくれと頼まれたのですが、もう少しスペイン語が思うように話せるようにならないと何も教えられないのと、週3日つぶれると自分自身のトレーニングがなかなか思うよう出来ないので、もう少し先になって手伝いたいと断りました。


 私があまり声を出して指導しない事に批判がある事は知っていました。ラグビーに対する考え方があまりにも違い過ぎ、途中から何を教えて良いのか分からなくなりました。ラグビーにはこれが最高に良いプレーだと言うものはありません。例えばポジショニングにしてもこの位置が最高だと言うものはなく、場面場面で全て違います。

 それはどのようなゲームを組み立てていくのかその戦略と相手の対応で決まってくる相対的なもので、ここだと言う絶対的なものではありません。

 コーチとして教えるべき事はその位置は良い、その位置は違うと言う事ではなく、なぜこの位置を選ぶのか、そこに至るまでの思考プロセスを教える事で、そうすれば、ポジショニングはこの場面では只一つ立つべき最高の場所があり、それはそこ以外にはない事が自然に分かります。

 その場所を導きだすには、チームがどのような戦略でこのゲームを組み立て行くのか、それが全ての基本になります。


 以前コーチングに対する擦り合わせをしようとしたらシャンティから何も回答はありませんでした。具体的な戦略がカデテスにないとしたら子供達の身近なヒーローのシッチェスAチームのプレーに合わせるしかありません。子供達がそれをまねしたがるからです。

 これが私と正反対で、私が思わずナイスプレーとつぶやいたプレーはヘッドコーチに厳しく叱られていました。私を助けようとベテランの選手がいろいろ手伝いに来てくれました。しかし、彼らのプレーも私のイメージしているものと全く正反対で、だんだん無口になっていきました。

 私が自分の考えている事を伝えるにはもっとスペイン語の勉強が必要だと痛感しました。


 前年の9月にコーチになってから、ボールに触る機会や自分で走る機会がなくなり、ベテランの練習にもほとんど参加できなくなりました。一ヶ月以上ボールに触る機会がない時もあり、とうとう家に飾ってあったエーコン(以前メンバーだったラグビーのクラブチーム)の人のサインボールを持ち出し、朝一人で走っている時、キックをしたりしてボールの感触を確かめるようにしました。

 

 このボールはスペインに来る少し前、エーコンの人が歓送会を開いてくれ、出席してくれた人がコメントを書いてくれたサインボール用のものだそうですが、ラグビーボールは飾っておくより、使ったほうが喜んでもらえるのではと勝手に解釈しました。(エーコンの皆様ごめんなさい)


 やはりラグビーは教えるものではなく、自分で楽しむものだと痛感しました。