星名理論と岡理論 64 受動的思考から主体的思考へ 6

初めて主体的思考を経験

 練習ではうまくいかないので、次は試合で試すことにした。中部自衛隊との練習試合があるのでその時に試すことにした。
 ところが試合ではもっと悲惨だった。向かってくる相手にはタックルすることしか考えていない自衛隊のセンターはまったくボールを持っていない私にタックルを繰り返した。
 
 レフリーもボールを持っているスタンドオフより前に走って行く私とまだボールも持っていない私にタックルする自衛隊の選手を見て何か不思議なことが起きているように見ているだけで、何度もノーボールタックルされている私を見ていながら一度も笛を吹かなかった。
 
 レフリーが後輩だったので試合後何故笛を吹かなかったのか聞いてみたら思いもかけない返事が返ってきた。「最初は浦野さんのオブストラクション(SOにタックルしようとしている選手を妨害した)を取ろうと思った。しかしコースが妨害していなかったので吹かなかった」
星名先生一人 
 二人の会話を聞いていた星名先生は、笑いながら「レフリーが理解するのにもう少し時間がかかるかな。誰も見たことがないプレーだから。しかし、これからの日本のラグビーはこうなる。体格で劣り、足の遅い日本のラグビーが世界に対抗していくには、浅いラインで早くアドバンテージラインを突破しなければ、深いところでいくら抜いても足の速い外人のフォワードのバックアップを振り切ることはできない」と言って気にかけている様子はなかった。

 私はスタンドオフの横に立ち、早くスタートして突破するイメージトレーニングを繰り返しました。時には最初からスタンドオフより前に立ち、遅らせてスタートするなど、いろいろなバリエーションでイメージトレーニングを繰り返しました。

 今までのイメージトレーニングとの大きな違いは、突破するポイントを相手の動きに合わせる受動的な思考のものではなく、突破するポイントを自分から決めてそこへ走り込むにはどの様にすべきか、と言う主体的思考のものに変わりました。

 夏の合宿のころからスタンドオフより速くスタートし、横に伸びて受けるという形はある程度マスターできるようになった。
 秋の関西リーグが始まる頃にはもうほとんどマスターし、ほぼ自由に走れるようになった。試合ではSOとのタイミングの取り方に難しさがあったが、タイミングがうまく取れたときにはほとんど抜くことが出来た。そして抜いた後はウイングまでボールが回るとスクラムからでもゴールラインまで届いてしまった。