ルディとの出会い

 首を傾げたあどけない目がじっと見つめていた。なにか珍しいものでも見るようなそのしぐさに見とれて、思わず口元が緩んだ。尻尾を振りながらじっと私を見つめていたルディは、突然体を沈ませ、はじけるようにして腕の中に飛び込んできた。飛び込んで来たと言うよりも走り込んで来た と言った方が正しい。ルディとの初めての出会いである。 

1996年3月の終わり、岡山の叔母の家の居間である。10畳ほどの居間の中央には掘り炬燵があり、ルディは炬燵の周りを走りまわっていた。居間の壁には「命名ルディ」と筆で書かれた張り紙がしてあった。 

 

  浦野ルディ   雄のミニチュアダックスフンド 1996年1月11日生まれ。 

 

岡山の叔母の愛犬、ナナの子ども、茶色のロングで父親はチャンピオンでその父親もチャンピオンでナナの父親もチャンピオンで、その血統書にはチャンピオンが三つもついている。血統としては申し分ない。 

妻のはるみが「犬が欲しい」と言い出したのは前の年の暮れからである。元麻布にあるマンションを買って、もうすぐ一年になる。偶然にナナに子供が産まれることを知った。どうしても欲しいと無理を言ってもらうことにした。はるみは茶色の雌が欲しいといったのだが、生まれた三匹は全て雄で、既に茶色の二匹は甥の昭弘の友人が持って返ったので、少し黒の毛が目立つルディが残ったのである。


初めて我々に会ったルディが飛びついたのを見て叔母は非常に驚いた様子だった。多くの人がルディを抱き上げようとしたが、ルディは叔母の家族以外には決して抱かせようとはしなかったそうだ。私と妻が抱き上げようとした時には、全然抵抗しなかったので、ルディ自身も我々の子供となる運命を悟っていたのかもしれない。 

従妹の子供がルディを欲しがっていたが、私たちに抱かれて喜んでいるルディを見て、その子は「子の人たちだったら安心してルディを任せることができる」と言ってあきらめた。 

  顔を会わせて東京に連れて帰るまでの二日ほどは叔母の家でそのまま預かってもらい、毎日通い抱き上げたりした。

 ルディとの出会いは、私のその後の生き方にも影響するものになった。